絵描きの植田さん いしいしんじ ポプラ社 2005.8.17 完読 2005/08/18 13:23

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本プロ青子さんの日記に魅かれ読みました。

 絵描きの植田さんは辛い過去の事故で耳を悪くしてほとんど聞こえない状態。絵の道具と少しの着替えを持って、都会から高原へ移り住む。

 湖のこちら側に住む人々は親切だ。
豪快なオシダさん、昔フィギアスケートの選手だった定食屋のおかみさん、自称詩人の元地方紙記者、牛乳屋、整備工、靴屋
 おかみさんの店は常連客でにぎやかだ。
その中に植田さんもいるのに、植田さんはとっても物静か。耳が不自由な事が理由ではないと思う、植田さんの心が閉じたままになっているのだろう。
 そんな植田さんも湖の向こう側から来た少女メリと親しくなってからは気持ちが豊かになっていくのがわかる。
 耳が聞こえないから、いろんな雑音も聞こえないが、澄んだ鳥の鳴き声も聞こえない。植田さんの今までの絵は、絵事態はすばらしくとも、絵のほうが耳を閉ざしたままでこちらからの呼びかけには応じてくれない、置き去りにされた絵だったと思う。
 メリの体中で感じようとする姿が植田さんの絵を変えたのかな。

 こちら側で行われるお祭りの、山の神への人々の祈り、願い。この中に達筆のとりわけ大きな字で「植田くんの耳がよくなりますように」とあった。

 他愛も無い子供たちの願いに混じってこの祈り。
山の神様がこの願いを聞きいれ、植田さんの固くなった心の耳を開いてくれたのだと思った。



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青子 > three bellsさん、ありがとうございます。three bellsさんの「絵事態はすばらしくとも、絵のほうが耳を閉ざしたままでこちらからの呼びかけには応じてくれない、置き去りにされた絵だった」に私も同感です。心を閉ざしてしまうと大切な思いも閉ざされてしまうのですね。すがすがしい読後感を与えてくれる物語でした。 (2005/08/18 17:31)
three bells > こちらこそ、ステキな本と出会えました。ありがとうございました。湯本さんの「わたしのおじさん」の挿絵の方だったのですね。いしいさんの優しい言葉にもぴったりくる植田さんでした。 (2005/08/18 18:27)
まゆ > しみじみと、いい話だなあと思います。一年位前に読んだのですが、今になって、思い出しては泣きたいようなせつない気分になっています。やはり手許においておきたい一冊ですねえ。 (2005/08/18 20:32)
three bells > いしいさんの文章は押し付けがましく無いので、せつなさが、まゆさんの心にひっそりと佇んでいるのでしょうね。 (2005/08/19 09:42)